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礼儀とマナーと気づかいと(3)

「自分で言った約束を守らない」


そのような態度に私がきわめて厳しいのは、もちろん生徒個人の倫理観を案じてのこともありますが、もうひとつ、教室全体のエネルギーバランスが崩れる原因になるためです。講師の替えが潤沢な(異動や退職による担当講師の入れ替わりが起こりやすいともいえる)大手と違い、これはワンオペの寺子屋独特の事情かもしれません。


不誠実な態度には毅然とした態度で接しなければなりません。学習態度と成績に密接な関わりがある以上、塾生の不誠実な態度をゆるゆると容認することは、決して安からぬお金をいただいてお子様をお預かりしている立場として、詐欺にも等しい行為だと私は考えます。だから放置はできません。


しかしそれによって、他の真面目な生徒に対応できるはずの時間が、不誠実な態度をとる塾生の是正に配分されるという弊害も出ます。真面目にやらない生徒が、真面目にやっている生徒の質問時間を奪う。そんなのはどう考えてもおかしいことです。不穏なお説教ごとは、生徒個人の問題だけにとどまらず、教室全体の空気も殺伐としたものに変えていきます。


つまり、1人の生徒の不誠実さが、他の生徒の足を大きく引っ張ることになるのです。

その影響を少しでも考えなさい、と私はストレートに伝えることもあります。


「あなたが自分の約束をきちんと守ることで、説教の時間も減り、あなたのやりたい勉強に割く時間も増える。それだけじゃない。あなたの説教が減ることで、それが巡り巡って他の生徒の質問対応の時間を増やし、結果的にみんなの成績を上げるチャンスを作る。そういう微妙なバランスのもとにこの教室は成り立っている。これは決してあなた1人の問題じゃない」


つまり寺子屋では、自分でした約束を守ることが、同じ教室にいる他の塾生全員への最大限の礼節でありマナーである、ということになります。そしてそれを破ることは、他人の勉強時間を泥棒することと変わらないよ、とも。


下を向いて、しどろもどろで、自分の保身を考えることで頭がいっぱいで、自分の行動が他の塾生に与える影響など微塵も考えたことがないであろう生徒。そんな子にとって、自分が他の塾生の足を引っ張っているかもしれない可能性を伝えるのは、追い打ちにも近く、いささか酷な面はあるでしょう。


しかし、人は誰しも自分中心に世界が回る価値観から脱却し、「世界の中に相対的に位置づけられた自分」を俯瞰して見る視点を持つべき日が、いずれ必ずやって来ます。単にそれに気付く時期が遅いか早いかの違いでしかありません。


うちの教室は方針上、生徒にその視点を持ってもらうことで教室全体のバランスが維持できるような仕組みになっているので、いち早く世の中を俯瞰して見るチャンスがあるともいえます。そりゃあ、授業受けて問題を解いて帰ってくるだけの塾に比べて、多少しんどいことはあるかもしれませんが、ここで培った視点は寺子屋を卒業した後にも決して無駄にはならない――いえ、卒業した後の生活にこそ、ますますその本領が発揮されていくのだと信じています。


世の中を俯瞰しながら自分の置かれた立ち位置を冷静に見つめ、自分の行動が他者へと与える影響とバランスを考えながら、これからの自分の振る舞いを決めていくこと。世に言うところの礼儀やマナーというのは、突き詰めれば「気づかい」。元をたどればそれが原点ではないでしょうか。ノックの回数やお辞儀の際の手の組み方など、そんな表面的なことではないことは明白です。気づかいとは平凡な言葉ですが、その真髄はだいぶ深いところにあるように思います。


だとすれば、決して礼儀やマナーの指導がうちの本分ではないと最初に前置きしたけれども、うちの仕組みをよくよく分解していくと、一周回って礼儀やマナーのコア(核)に通じる訓練が自然と組み込まれているのだと感じます。事実、私のもとで鍛えられて巣立っていった卒業生たちは、なんだかんだ進学先でもしっかり立ち振る舞いができている子ばかり。今から将来が楽しみです。



(4)まとめ


以上、礼儀やマナーというテーマについて、寺子屋におけるいくつかの取り組みについて掘り下げてみました。それぞれの指導に意図があることをご理解いただければと思います。そして、ここでいう礼儀やマナーとは、お辞儀の仕方のような儀礼的な作法を指すのではないということも。


(1)挨拶

・自分が来るより先にいた人や、自分が帰った後にも残る人に対する、報告の一環。

・報告や相談が必要になったとき、空気を読みすぎてためらうことなく、進んで相手に声を掛けられる人になるための訓練。


(2)消耗品と環境の整備

・次にそれを使う人を困らせないため。

・自分の見えない所で生活を支えてくれる人の存在を知覚するきっかけづくり。


(3)約束を守る

・自分の行動が他人に与える影響とバランスを考えて、次の行動を決める訓練。

・一般的にいわれる礼儀やマナーのコア(核)となる視点=「世界の俯瞰」の習得。

・気づかい。


最初にも書きましたが、塾は勉強をするための場所です。決してマナー指導が塾の本分ではありません。しかし、家庭と学校の二極に次ぐ第三・第四のコミュニティとして、塾もまた子どもの行動や価値観形成に無縁ではないこともまた事実。


あまり出過ぎた真似はしないようにと気を払いつつも、同じ屋根の下で異なる学校・異なる学年と同室でともに勉強をすることで、他人に対する気づかいの意識が、子どもたちの中に少しずつ芽生えてくれることも願っています。



(ここからは余談……)


 

ずいぶんと偉そうなことを書いてきたが、実のところ私には、世に言うところのビジネスマナー的な仕草にはほとんどこだわりがない。少なくとも敬語はマスターすべきだとは考えているが、やれ名刺は名刺入れをお盆代わりにして渡せだとか、やれお辞儀をするときには右手を下にだとか、そんな形式的な儀式にこだわることは実に馬鹿馬鹿しい。先にも述べたように、マナーとは気づかいである。


受験が近づいた頃、中3生に面接練習を行うことがある。あるとき生徒が入室の段階で


「コン、コン……失礼します……あれ?ノック2回でした?3回だったかな??」


などと言って開始早々止まってしまったことがある。


「どっちでもいいよ(笑) 『失礼します』がちゃんと言えてるならOK!」


とツッコんだことがあるが、まぁこんな感じのスタンスである。

また、別の生徒に「当校を志望した理由は?」と質問を投げかけたとき、開口一番


「ハイッ、キコウ、貴校デハ様々ナ資格取得ヲ推進シテオラレル……」


などとおよそ平成後期生まれの中学生には似ても似つかぬ出だしでガチガチの奏上が始まったもんだから、思わず噴き出してしまった。


「ちょ(笑)っとストップ!貴校?『貴校』!? いったいいつの時代の人ですか?どこでそんな言い方覚えたのよ……」


「だって学校の先生がこう言えって……」


「化石人類か!!……あんまり形だけの言い方にこだわらなくていいのさ。『貴校』じゃなくて『こちらの高校』とか、『●●高校さん』という言い方でも、中学生なら大丈夫。

それより、暗記したセリフをただ暗唱するはやめて、嘘偽りのない自分の言葉を使って自然体で語るようにした方が良い。その高校に入りたい理由を。その高校で何がしたいかの展望を。

多少言葉が崩れても、一生懸命話せば絶対面接官には伝わるから」


といいながら、受け答え内容の練り直しが始まっていくのである。


私の思う礼儀とかマナーとは、そういう慣習や形式といっガチガチの作法に無理矢理自分を合わせることではなく、「どうすれば相手に伝わるか」「こんな風に振る舞ったら相手はどう感じるか」ということに常に神経を研ぎ澄まし、自分の行動が相手に与える影響を想像ながら行動することに他ならない。面接の練習もまた、世界の俯瞰や気づかいの練習の場なのである。



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